コラム記事

2020.01.24

「フードバンク」を知っていますか

佐々木勝年(NPO環境持続建築 理事長)

「フードバンク」を知っていますか

皆さんは「フードバンク」を知っていますか。
「フードバンク」とは、まだ、安全に食べられるのに規格外品や包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で、流通・販売に出すことができない食品等を食品製造業や卸売業、小売業から寄贈を受け、必要としている福祉施設や団体、生活困窮世帯に無償で提供する活動を指します。こういう団体は、日本では、『セカンドハーベスト・ジャパン』が2000年に始めて設立されました。この「フードバンク」は1960年代末期にアメリカで始められましたが、日本での『セカンドハーベスト』も、元米国軍人で、その後上智大学で教鞭を取っていたユダヤ系米国人によって、炊き出しの食材集めから始まっています。2012年にはテレビ東京の『ガイアの夜明け』などで紹介され、世間が知ることになりました。2012年頃から「フードバンク」は日本各地で設立され、2018年度では約100団体にまで増加している。東京都には10団体が活動している。

もともと「フードバンク」事業は食品ロスの解消のために展開されてきました。食品ロスとは、まだ安全に食べられる食品が廃棄物として捨てられていることを指します。農水省によれば、2016年度推計で事業系・家庭系廃棄物が1,736万トン程度あるが、その内食品ロス分は643万トン(37.0%)です。40%近くの食品がまだ食べられるまま捨てられているのです。一方、廃棄物処理費用やその単価もますます増加しています。この食品ロスを解消に「フードバンク」が利用されています。食品製造業や食品卸売業、小売店・食品スーパーなどは食品を「フードバンク」に寄贈することによって食品ロス活動を推進できるとともに廃棄物処理費用を削減できる。一方、「フードバンク」は食品製造業等から無償で食品を入手して配布することができるわけです。両者はウィンウィンの関係になるというわけです。しかし後に述べるように、いくつかの問題点があります。
ところでこの「フードバンク」事業は、リーマンショック以降、世界的な格差問題が明らかにされる中で、貧困問題、とりわけ子供の貧困問題に取り組むようになってきます。現代日本社会では貧困など存在しないといった理解が多いのですが、貧困問題は大きな課題として存在しています。厚生労働省によれば、所得の一定割合の『貧困線』を下回る所得しか得ていない者を貧困者と規定し、2人家族の貧困線は172万円で、3人家族は211万円であり、それを下回る世帯が相対的貧困とされ、2015年現在、全体の13.9%を占め、7人に1人が貧困家庭のこどもです。特に一人親(いわゆるシングルマザー)世帯では、実に、50.8%が貧困家庭です。また、家庭でのDVにさらされて、定職に付けず逃げているシングルマザーも多い。これらの方々の救済のためのシェルターも徐々に整備されつつあります。
このような現状を踏まえて、こどもが1人でも安心して来られる無料または低額の「こども食堂」が全国では2,200カ所程度開設されている。多くのフードバンクがこのような「こども食堂」やシェルター等に食品を提供している。特にシングルマザーの家庭には、夕食も子どもが一人で訪ねることのできる「こども食堂」が開設されています。
一般に、「フードバンク」と食品製造業等は次のような契約書ないしは覚書を結んでいます。その内容は、①寄贈食品の転売・再販の禁止 ②非営利目的の範囲で使用 ③提供先の法規遵守 ④帳簿の記録作成・保管・開示 ⑤損害の免責 ⑥提供先の免責同意 ⑦適切な衛生管理を行うことなどが盛り込まれている。寄贈食品の転売・再販禁止事項は、産業廃棄物処理業者のダイコーによる廃棄食品の不正転売を契機に、より強く求められている。一方で、食品製造業や食品卸、小売業は、「フードバンク」の食品提供先で「アレルギー表示」及びそれの注意が適切に行われるかに関してリスクを感じている。損害の免責は覚書等で確保されていが、食品提供先に食品が送られたときに、十分なアレルギー表示、アレルギーリスクの説明がなされているかに関してリスクを感じています。
「フードバンク」と食品製造業等はウィンウィンの関係といっても、いくつかの課題を抱えている。それは、①「フードバンク」までの食品の物流費をどちらが負担するか。②冷凍・冷蔵食品を扱うことのできる倉庫機能、物流機能を担うことができない。③食品製造業や流通業者が行っている安全条件や品質の保持を「フードバンク」は同一レベルで維持できない。
これらの問題は、基本的には、「フードバンク」が活動に応じた倉庫機能や物流機能を持っていないことがネックとなっている。「フードバンク」サイドも、特定の食品製造業には提供食品を受け取りに向い、他のメーカーには相手側の物流に食品流通を求めているケースなどがあります。すべての食品寄贈先に同じ対応をしているわけではありません。しかし、フードバンクは基本的にボランティア事業であり、しかもどの団体も財政的基盤が脆弱であり、それを解消できる道筋は必ずしも見えていない。ほとんどの「フードバンク」はNPO法人で運営されている。この課題の解決のためには、多様な機能を持った企業群や行政とのアライアンスによる大きな社会システムの構築が求められている。また、「フードバンク」は消費期限の短い生鮮品や日配品などの取扱いは難く、スーパーやコンビニとの連携も一部しか進んでいない。また、賞味期限のある缶詰、レトルト食品、加工食品などは3分の1ルール(全体の賞味期限の内、1/3で生産・保管・物流し、さらに1/3で販売、1/3で回収する商習慣)に縛られて、なかなか寄贈食品とならない等、多くの問題を抱えています。
多くの「フードバンク」は厳しい活動条件の下で、ボランティア活動として展開されている。運営スタッフの言葉を聞けば、もし運営コストの負担を食品提供先に求めるようなことになればやめたほうがましだと話している。しかも「フードバンク」の運営スタッフの多くが、定年退職後のおじさん、おばさんで担われている。我々と同世代の方々の次の活動場所となっている。「フードバンク」のサービスには、個々の消費者が家庭で余っている食品を「フードバンク」に提供する「フードドライブ」という活動も行っています。「フードバンク」や「フードドライブ」と書かれたイベントを見つけたら、皆さん一度声をかけてみてください。別な世界が開かれるかもしれません。

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